2017.06.10 20:59|books
我孫子武丸「殺戮にいたる病」(講談社文庫)

1992年出版の単行本を、96年に文庫化。
連続猟奇的殺人をメインとした小説だが、カバー裏表紙の内容紹介では「衝撃のホラー」とある。
しかし、巻末の解説(笠井潔)では、「ホラーでもサスペンスでもない。現代の本格探偵小説として書かれた作品である」と評されている。
ここでは、逆にホラー要素もサスペンス要素もあるミステリであるとしておこう。

この作品の特徴は、冒頭に「エピローグ」が置かれていることと、そこで連続殺人犯が蒲生稔という男だと明示されていることだ。
2ページのエピローグでは、最後の殺人現場で犯人である蒲生稔が警察に連行される場面が描かれている。
つまり、この作品は何人もの容疑者の中から犯人を推理する類のミステリではない。
本編では、三人の中心人物の視点から一連の殺人事件について、各人のパートに分けて書かれていく。
ここで面白いのは、各人のパートの時間軸がずらされて書かれているところだ。
一人は、癌で妻を亡くし警察を退職した元警部、樋口という男。
彼のパートは、年の明けた1月より始まる。
もう一人は、あることをきっかけに息子が殺人犯なのではないかと疑い煩悶する、蒲生雅子。
このパートは、彼女が疑念を持った2月より書かれる。
そして三人目が、殺人犯である蒲生稔。
彼の行動は、最初の殺人が行われた時点――上記二人の前年から書き起こされている。
これら三つのパートが、それぞれの時間軸の中で進行していく様が交互に描かれる。
やがて、繰り返される連続殺人を辿る稔パートが、樋口・雅子の時間軸に追いつく形で時間の流れが揃い、三者の行動が同時進行となる。
その頃には、物語も佳境に入り、作品冒頭に提示された「エピローグ」の最終場面へと突き進む。
しかし、本編のラストシーンに至り、読者はあっと驚くことになるだろう。
エピローグとの矛盾がある訳ではない。
でも…。

本作品は、犯人探し・犯人当てという種類のものではないが、前述のように様々な工夫を凝らした構成などにより、実に読ませるミステリとなっている。
ぜひ、ラストシーンに向けて仕掛けられたトリックを味わってほしい。
(但し、猟奇殺人の場面が細かく描写されているので、苦手な人は注意されたい)



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2017.05.04 18:44|books
山本弘「ニセ科学を10倍楽しむ本」(ちくま文庫)

本書で「ニセ科学」とは、「科学をよそおってはいるが、科学ではないもの」としている。
一見、科学的な言葉・用語を用いながら、そこで示される内容はまったく科学的でなく間違っていたり虚偽であったりするものである。
それらニセ科学に騙されないよう、ニセ科学について学びその見極め方を身に着ける。
そしてそれを、楽しく学べるように書かれたのが、「10倍楽しく」と冠された本書だ。
元は2010年に出版された著書を文庫化したものなので、一部古くなった項目もあるが、文庫化に当たって(2015年時点での)追記を各章末尾に加筆する形でフォローしている。
しかし、ニセ科学について学ぶ上においてはまったく問題はない。

内容は、取り上げるニセ科学のテーマ毎に章を立て、それぞれの主張・論理について科学的・論理的な検証を進め一つ一つ丁寧に否定していく。
中学生の女の子を主人公に、彼女の父親(主に解説役)との会話によって話が進んでいく(適宜、母親や級友も登場する)。
そのためとても親しみやすく読みやすい。
科学の読み物としても最適だ。

取り上げられているニセ科学の一部を挙げると、「ゲーム脳(キレやすくなる)・脳トレ」「血液型性格判断」「フードファディズム」「アポロ陰謀説(アポロは月に行っていない)」などが各章で説かれ、語り切れなかった項目は最終章にまとめてられている(「ゲルマニウム」「ホメオパシー」「9・11陰謀論」「インテリジェント・デザイン論」など)。

エピローグでは、ニセ科学に騙されないための10のポイントが示されている。
ニセ科学に騙されることで危険な目に遭ったり、お金を失ったり、自分や他者の名誉や信頼を失ったり、場合によっては命を落とすようなこともなる。
本書によって、ニセ科学について学び、改めて科学的な視点・知識を持つことの重要性を知ることをお勧めする。



以前紹介した「『ニセ医学』に騙されないために」では、ニセ科学の中でも医学関係に絞って、ニセ医学を詳しく解説・批判している。
併せて読まれることをお勧めする。

 →NATROM「『ニセ医学』に騙されないために」



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2017.04.23 20:02|books
有働由美子「ウドウロク」(新潮社)

著者は、スポーツ番組やニュース番組の担当を経て、紅白歌合戦・情報番組「あさイチ」の司会で今や名実ともにNHKの顔の一人となったアナウンサーだ。
彼女初の著書は、エッセイ集。
過去から現在まで、仕事のこともプライベートも、NY赴任中のエピソードから恋愛に至るまで。
縦横無尽に書きつけられた文章が、各章立てによりテーマ別に分けられて収録されている。

書名の「ウドウロク」は「有働録」なのだが、反対から読むと「クロウドウ」になる。
「あさイチ」の放送後、プロデューサーに「出たね、今日もクロウドウ」と言われ始めたのがきっかけという。
本人には特に他意はなかった発言が、周囲には棘があったりちょっとした悪意が感じられたりするように受け取られ、「クロウドウ」と呼ばれるようになった。
ならばと、クロいと言われるような部分も、反面「シロい」と思っている内面も、すべて本音で書き連ねたのが本書である。
この一冊を読めば、彼女の人となりや人物史をよく知ることができ、より親しみが持てるようになるだろう。

彼女自身、「番組が調子いいからって、調子こいてエッセイかよ」と言われるのを承知の上で出版したという本書。
「もしよろしければ、四十半ばの女のひとりごと、読んでみてください」と殊勝な態度で書いてはいるが、そこは硬軟取り混ぜた様々な番組を経験してきたベテランアナウンサー、堅苦しい文章に止まるはずはない。
最初のエッセイが「わき汗」である辺り、読者の要求のツボを押さえ、エンタテインメントを熟知した「分かっている」アナウンサーなのだ。


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2017.03.27 22:13|books―マンガ
作:宮崎克 画:あだちつよし「怪奇まんが道」(集英社)

ホラー漫画界を代表する4人の巨匠―― 古賀新一、日野日出志、伊藤潤二、犬木加奈子。
彼らのデビューまでの経緯や代表作などの執筆を巡るエピソードを、本人や関係者への取材を基に描くオムニバス作品。
漫画家として大成するまでの道程は、四者四様だ。
デビューのきっかけも、出版社に持ち込みをした者もいれば、雑誌の漫画賞に応募した者もいる。
代表作も、デビュー作がそのまま代表作になった者やいくつもの連載に忙殺される中で生まれた者、さらには身を削るようにして執念に導かれるままに描き上げた者もいるという具合である。
こうした4人それぞれの漫画家歴を辿ることは、とても興味深い。
「エコエコアザラク」とは、どういう意味なのか?
日野日出志の独特で濃厚な作品世界は、どのようにして生み出されたのか。
「富江」執筆のきっかけとなった出来事とは。
彗星のごとく現れホラー漫画界を席巻した犬木加奈子は、何故十年で引退したのか。
各作家や作品のファンとしては、興味引かれるエピソードばかりである。
ホラー漫画家というと、気になるのは、初めから幽霊や化け物などの怪異なものが好きだったのか、また霊感はあるのかといったことだが、その辺は本書を読んで確かめていただきたい。
これも各人様々である。
一つ言うと、連載中に怪奇現象に見舞われ、神経をすり減らしながら執筆を続けた者がいる。

ホラー漫画の大家4人の創作の背景を描いた各人の半生記。
ホラーを含め漫画好きの人は必読だ。


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2017.03.14 20:51|books―マンガ
ヤマザキマリ×とり・みき「プリニウス」Ⅴ(新潮社)

大著「博物誌」を書き残した古代ローマの博物学者プリニウス。
彼の活躍を中心に、皇帝ネロ期の古代ローマ世界を描く。

スタビアのポンポニアヌス(第1話に登場)の下に身を寄せていたプリニウスは、ラルキウスという人物に会う。
彼は、地中海沿岸を中心にパルミュラ(シリア)やエチオピアなどローマ帝国領各地を旅してきていた。
各地の火山や、東西交易の要衝パルミュラの街の様子、エチオピア奥地で出会った人の形をしていない種族…。
彼の冒険譚を聞き、プリニウスは自らも広く世界を見聞したい誘惑に駆られ、ネアポリスの港から船に乗り込む。

今回は、陰謀渦巻くローマ皇宮のエピソードはほとんど登場せず、プリニウス一行の冒険旅が中心。
新キャラも登場し、警護役のフェリクスはすっかり道化的役割が確立してきた。

次巻ではまた帝国中枢の人間模様が描かれるという。
プリニウス一行の旅もさらに展開を見せるだろう。
次巻も楽しみだ。


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プロフィール

あずきとぎ

Author:あずきとぎ
うつらうつらしています。
「うつ病」で通院中。
千葉県北西部に在住。
男(おっさん)。
(画像は、キャラメイクファクトリー様http://mac.x0.com/test/にて、作成)

→好きなものなど(ツイフィール twpf)

→twitter(@azukitogi19)

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